【工具鋼Gr.】HCPダイテックSection 熱処理マネージャー 南方洋

熱処理の仕事を教えてください


簡単に言うと、特殊鋼を長持ちさせるためにどうしても必要な工程という説明になりますね。材料を加工して金型を作りますが、そのままの状態で製品を打つと軟らかすぎて金型として何回も使えません。
だから金型を硬くする必要があって、硬くするためには熱処理という作業が必要になります。なかなか、一般の人が目にするような作業ではないんですけどね。

どのような場面で世の中の役に立っていますか?


繰り返しになりますが、特殊鋼の多くが素材そのままでは工業製品として使用するには軟らかすぎます。Cr(クロム)やNi(ニッケル)などの元素を添加することによって得られているはずの靭性や耐摩耗性などの特性がまだ発揮できていない状態です。

切削工程を終え、粗加工形状になった製品や金型部品を、熱処理によって熱してその後冷やすことで、硬さを十分に高め、その特殊鋼がもつ本来の特性を最大限に引き出してあげることができます。それが私たち熱処理の仕事です。この工程がないと世の中の特殊鋼は本来の性能を発揮できません。熱処理業務で扱っているものは金型製品が多いですが、最近では自社製品の熱処理にも挑戦しています。日本のトップ・フィギュアスケーターの方々にご愛用頂いている、自社製品であるフィギュアスケート用ブレードの加工前の熱処理は、必要な強度が出せるよう、山一ハガネ独自の熱処理条件にて私たちの部署で行っています。

この部署で海外と関わることはありますか?


ベトナムに工場があり、そこでは鋼材の販売、熱処理、機械加工を行っています。ベトナムも日本と同じような熱処理設備を持っているので、基本、ベトナムとは関わることになりますね。ベトナムの工場とはコロナ以前から技術交流を行っていて、コロナで一時中断されていましたが、日本から技術指導に行ったり、ベトナムから研修で来てもらったりしています。基本的に、日本から技術指導に行く指導員は一名です。日本から行く指導員は、出張ベースで滞在してもらうので、一通り熱処理のことを分かっていて金型の説明や設備に関しての知識がある人間でないといけないし、行かせることもできません。

日本のお客様から依頼のあった製品のうち、ベトナム工場で製作しているものもあるので、不具合があってはいけません。とくに日本に納入する製品に関しては、日本のクオリティが求められるので、ベトナム工場の社員の技術力の向上は絶対に必要です。どこで作っているのかは関係なく、山一ハガネが納品する製品である以上、山一ハガネの品質として自信を持って出せるものを作っていかないといけませんからね。

また教育の面から言うと、現地に行く指導員は熱処理技術を身に付けてからベトナムに行き、日本とはまた違う環境で技術指導を行うことで、自身の成長にも繋がるということもあります。逆にベトナムの社員は、日本に来て研修を受けることで、日本の社員とコミュニケーションをとりながら熱処理技術を覚え、日本の会社のことや仕事に対する姿勢というものを覚えて帰ってもらい、帰国した際に現地の人たちに少しでも伝えてほしいと思っています。

山一ハガネの熱処理として、これからどのように成長していきたいですか?


お客様に、『山一ハガネの熱処理は品質が高いから、ぜひお願いしたい』と言ってもらえる信頼関係を築いていきたいです。そのためには、もっと加工屋さんと協力して寄り添い、タッグを組んでやっていきたいと思っています。加工で難しい場合があれば、見積もり時や図面を交わす段階でうちに相談してもらうことで、熱処理における対策を考えることができます。加工屋さんからそういった相談を気軽にしてもらえるようになりたいです。

最近では、面識のない電話だけのやり取りのお客様も増えていますが、1回でも対面で会うことができれば、お互いに電話の向こうの相手の顔が見えるので、安心感も芽生えるじゃないですか。やはり、顔を合わせないまま電話だけでのやり取りは少し嫌なので、やり取りがあるけれども面識のないお客様に関しては、ぜひ同行させてもらって対面で話をさせてください、と営業さんにお願いをしています。

お客様とはもっと近い関係でありたいと思っています。メーカーの品質を維持しながらもお客様の要望に細かく対応できる、そんな熱処理屋を目指しています。

子育てと仕事の両立はしやすい職場ですか?


これからは、制度を使う人にとってさらに使いやすい環境にしていかないといけないし、制度があることをちゃんと教えていってあげることは必要だと考えています。それ以外のサポートとなるとなかなか難しいところはあるのですが、同じ現場で働く人たちに事情を説明して、有給を多く取得できるように配慮したシフトを組んでみるなどと言った対応はできるかと。また、相談内容によっては、自分の一存では決められませんが、チームとしてフォローできるのであれば、なるべく希望に沿えるようにフレキシブルにやっていけばいいかなって思うし、臨機応変に対応していける環境はあると思っています。