3Dプリンタ製オーダーメイド治具事例ー株式会社町井製作所様

■株式会社町井製作所様概要

創立:1977年10月
事業内容:プレス用金型の設計製作、プレス部品及びCO₂・スポット溶接部品の生産・加工
従業員数:170人
【町井製作所様HPはこちらから】
主に自動車のプレス部品を生産する町井製作所様。プレスの金型の製造、プレス加工、溶接加工まで一貫生産することで短納期・低価格を実現している、自動車王国・愛知を支えるモノづくり企業だ。

株式会社町井製作所
品質管理部
部長 甲斐紀和様

株式会社山一ハガネ
営業企画本部工具鋼Gr
大西巧真

■3Dプリンタ製治具製作の背景

ありとあらゆる自動車部品約550点を生産する町井製作所様では、プレス加工で作られた部品同士を溶接する製品も数多くある。そのどれもが自動車に組付けられる部品なのだから、当然求められる精度も高い。
しかし、肝心な治具が割れ・欠けてしまい精度を保つことが難しくなってきていた。

修理をしながらギリギリで使用されていた治具

■製品導入前の状態

アクリル系樹脂の削り出しの治具を使用していたが、熱や衝撃に弱くすぐに破損してしまっていた。社内で修理しながら使用していたものの、品質維持に限界を感じていた。
しかも、図面等がないため再製作はできない状態だったという。

———こちらの白い治具も3Dプリンタ製ですが、過去に作られたのですか?

甲斐様:そうなんですよ。アクリルの治具が壊れてしまった時に、何かいいものはないだろうかと模索して、他社さんですが依頼したことがありました。だけど納品された製品は簡単に手で割れてしまうほど脆いものだったんですよ。
溶接する際に、位置がずれてしまって溶接棒が治具に当たることもあるし、作業者が床に落としてしまうこともあるんです。簡単に壊れてしまっては治具の役割を果たせませんから、困っていました。

■なぜ、それでも3Dプリンタ製を?

甲斐様:もちろん最初は不安もありましたよ!大西さんが話を持ってきてくれたんですが、正直言って初めは疑っていましたね(笑)一体どのくらいの性能の物なのか、それに3Dプリンタの技術的なところもわかりませんから。だけど、とてもいいタイミングでお話をいただきましたし大西さんが一生懸命に説明してくれて工場見学の提案をもらったので、まずは見に行ってみようと思いました。

甲斐様:やはり“現地現物”ですね。画像などで見ているだけでは製品そのものの良さはなかなか伝わらないかもしれないけれど、山一ハガネさんの現場へ行って、そこで作られた物に直接触れたら、納得しましたね。

甲斐様:ノベルティとして置かれていた「遊星歯車」を触ったのですが、こんなに高い精度で製品が作れるのかと驚いて、当初抱いていた不安なんて全て吹っ飛びましたよ!
それに楽しかったですね。僕からしたらモノづくりのテーマパークでしたよ(笑)
大西:お越しいただけて本当によかったです。

■AM技術の具体的な活用

実際に山一ハガネではどのように製作していったのだろうか。
使用したソフトウェア:nTop・Fusion360・Prusa Slicer
ワークのスキャンデータを町井製作所様から頂戴し、そのデータを基に3Dデータを作成。要件を確認しながら試作品のフィードバックをいただき、修正を経て完成となった。

設計段階から造形時のことを配慮した設計ができるのが山一ハガネの強みのひとつである。
例えば設計と造形が別の会社の場合、もう一方を理解していないために造形の失敗や不具合が起こりやすいのだ。

甲斐様:細かい部分をいくつか指摘させてもらったけれど、元々最終的な微調整はこちらでやるつもりだったんですよ。だけど、山一ハガネさんはかなり細かいところまでヒアリングがあって、こだわりを感じましたね。
大西:やっぱり、いい製品をお届けしたいと思っていましたから。
甲斐様:ありがたいね。過去に、手直しや修正を嫌がる会社さんもあったんですよ。『これが限界ですよ』って。作り直してほしくても言えなくて困っていたところに大西さんという“光”がね、来たわけなんですよ(笑)
大西:おっ、光ですか!(照)
甲斐様:責任感をもって向き合ってくれて、よかったですよ。“ちゃんといいものを提供しよう”という姿勢でヒアリングをしてくれたので、試作品からかなりしっかりした製品が届きましたね。

■製品導入後の改善効果

甲斐様:みんなとっても喜んでいますよ!現場での作業者は女性もいるんですが、まず何より、軽くて使いやすいそうです。作業中に治具を落としてしまう事もあるんですが、これまでの治具と違って、落としても壊れないから安心して作業できるという声もあります。僕は立場上、実際に使う現場の人達の“困り事”をよく聞くので、それを解消できたことは嬉しいですね。さらに、これまでの治具は脆い上に図面がなかったので再製作ができなくて困っていたのですが、山一ハガネさんの治具ならデータが残るので何度も製作できて、本当に安心です。

この取材中にも、新しい治具についてのお話しがあったほど町井製作所様にとって欠かせない治具となっている。

■予期せぬ事態が…!

後日、二種類目の治具を納品に伺った大西に甲斐様から衝撃の一言があった。
「治具が割れてしまったよ」
それを聞いた大西は現物を確認し、すぐに山一ハガネの技術者の中田へフィードバックを行ったという。

甲斐様:軽い相談くらいのつもりで言ったんです。でもそこからの対応に驚きましたよ。大西さんに伝えた翌日には、技術者の中田さんが新しい治具を持ってきてくれたんです。しかも、割れないよう対策された治具を!
中田:大西からすぐに治具が壊れてしまったと聞いて、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。割れてしまった治具の写真から、治具にかかる負荷の方向などを推測し、すぐに設計し直して、その日のうちに造形も行ったんです。
甲斐様:例えば、再発注したものをすぐに製作してくれるだけでも対応として一般的だと思うんです。でもこちらの期待以上・予想外の対応に、モノづくりへの責任やプライドを感じましたよ。修正内容を聞いたんですが、私たちには思いつかないような修正も行われていて、素晴らしいなと思いました。
中田:せっかく信頼していただいたご依頼ですから、技術者チーム全体で修正に取り組みました。“商売”だけを考えたら再発注いただいて全く同じものをお渡しするという事もあるのでしょうけど、私共は“お客様の困り事・欲しいものを形に”というコンセプトの基で動いていますから、すぐに壊れるとわかっているものをお渡しするわけにはいかないんです。

さっそく次の治具について打ち合わせる(左から)甲斐様・大西・中田

山一ハガネの提案力に対し、甲斐様に「引き出しが多くて頼もしい」と仰っていただけた。しかしそれは今回のように共に“良い製品を創ろう”としてくださる関係があってこそだと中田は語った。

「今後もお客様のお困り事に向き合い、AM技術とチームワークで解決していく」と、大西も熱く意気込んだ。
町井製作所様と山一ハガネのwin-winな関係はこれからも続いていく。