Japan Pride -モノづくりの先にある思い- HITAKI職人 橘髙伸二

山一ハガネに入社してから、モノづくりの現場一筋で歩み続けてきた橘髙。鋼材の切断や、3Dプリンタのモノづくり、そして現在所属する自社製品Grで培った溶接技術を活かし、職人として焚き火台“HITAKI”の製造を一手に担っている。


■HITAKI開発時のエピソード

開発者鈴木の思いが詰まった焚き火台“HITAKI”。
※焚き火台「HITAKI」開発秘話を参照
アウトドア歴40年の鈴木が、何台もの焚き火台を使う中で既製品には満足できず「もっとこうなったらいいのに」という思いからHITAKIの構想が生まれた。
鈴木が職人として最も信頼する橘髙にその思いを託し、橘髙と鈴木の二人三脚で開発がスタート。しかし、完成までの道のりは決して平坦なものではなかった。

HITAKI開発者の鈴木(写真右)と話し合う橘髙


鈴木の思いを形にするため、HITAKIはひとつひとつ丁寧に「手作業」にこだわって作られている。
まず思い出すのは試作段階のBar材の曲げ作業だと橘髙は言う。

3mもの長さのBar材を切断するところからHITAKIの製造が始まる


材料については色々なものを試した。最初は5mmのBar材を使ったが、鈴木が求める強度に達しなかったため、8mmと12mmという、他の焚き火台ではまずお目にかかれない太さのBar材を使用することになった。
開発当初は加工のための治具※もなく、これだけ太いBar材を手で曲げるのはとにかく大変だった。曲げ加工をした翌日は、いつも背中が筋肉痛だったと当時を思い出して橘髙は苦笑する。
※治具:加工物を固定し位置決めをしたり、加工しやすくする補助工具のこと。

専用の治具を使い極太のBar材を曲げる


■技術開発センター“AEROV”の協力

そこで、山一ハガネ技術開発センター“AEROV”の長であり、世界最高のフィギュアブレード「YS BLADES」の開発者でもある石川が橘髙に協力。
※YS BLADES開発秘話参照

YS BLADES開発者の石川(写真左)が橘髙に協力


HITAKI加工のための治具を石川が設計・製作し、曲げ加工の効率と精度を大幅に向上させた。

石川が橘髙のために設計・製作した曲げ加工用治具


この治具は、材料を自社で調達、設計、製造まですべて山一ハガネ内で行っており、材料調達から金属加工までを一気通貫で行えるファクトリーモールを持つ山一ハガネの強みが活かされている。
また、HITAKIの穴あけ加工はAEROVの工作機械で行われており、材料調達から加工まですべて山一ハガネで製造している純Made in Japanの製品なのだ。

AEROVで加工が終わった材料をチェックする石川と橘髙


HITAKIの特徴である「ピンロック構造」も、元はネジとボルトでとめるだけの構造だったが、より機能的にするため鈴木、橘髙、石川でアイディアを出し合い、現在のピンロック構造にたどり着いた。このピンロック構造も、AEROVの超高精度の穴あけ加工があってはじめて実現可能なのだ。
開発者鈴木がこだわったのは、他の焚き火台にはない「究極」の価値を追求すること。HITAKIは一見シンプルで簡単にマネできそうだが、そうではない。モノづくりへの熱い情熱を持つ橘髙と石川の技術により、他に類を見ないHITAKIの機能性と頑丈さを実現しているのだ。


■橘髙のモノづくりにかける思い

モノづくりについては、とにかく“丁寧な仕事”にこだわっていると橘髙は語る。
そのこだわりが良くわかる製品が、肉焼き用の「ロストル」である。
外周となるフレームは、長さ895mm、直径8mmのBar材を溶接なしの「曲げ」だけでコの字型に加工する。
継ぎ目のないデザインで機能美を追求する開発者鈴木の設計思想により、この特徴的な形となっている。

ロストルの外周は長さ895mmの一本のBar材を曲げて作られる


曲げ加工は大変だが、継ぎ目のない規則的で連続性のあるデザインは美しく、とても気に入っていると言う。
また、中央部分も10本ものBar材が並び、溶接は上下表裏合わせて実に40箇所にも及ぶ。
とても手間がかかり難易度も高い作業となるが、その分、加工次第で製品の良し悪しが目に見えて分かるため、ロストルを作っているときが一番楽しいと笑顔で話す橘髙。

溶接作業は職人橘髙の腕の見せどころだ


「良いものを作ってお客さんに喜んでもらえることが一番嬉しいし仕事のモチベーションになる。自分は器用な方ではないので、毎日モノづくりを重ねながらコツコツ技術を積み上げている」と橘髙は胸を張る。

ロストルの仕上がりを確認する橘髙


■HITAKI加工のこだわり

HITAKIの加工の中で、特に溶接と位置出しは時間をかけている作業だ。
溶接は本当に難しく奥が深い世界で、綺麗に溶接できるようにコツを掴むには時間がかかる。
金属を溶かしすぎると溶接個所が盛り上がり過ぎ、溶かしが足りないと強度が足りなくなる。
溶接がうまいと綺麗な鱗のような形になり、見た目から違いが分かる。溶接次第で品質が大きく左右されるため、常に気が抜けない作業だ。
「仕上がりに満足したことは今まで一度もない、もっともっとうまくなりたい」と、橘髙はモノづくりとひたむきに向き合っている。

正確な位置出しを行ったうえで、ひとつひとつ丁寧に溶接を行っている


凝ろうと思えばどこまでも凝れる、時間が無限ならいくらでも、満足いくまで何度でもやり直したい。
しかし、こだわり過ぎて必要以上に時間がかかっては製品として成り立たないし、お客様にお届けすることもできなくなる。
こだわりを持ちつつ、スピードと効率を考え、常に今持てる自分のベストで橘髙は仕事をしている。

すべてのHITAKIに職人橘髙の思いが詰まっている


■モノづくりと仕事の楽しさ

モノづくりをする中で、毎日新しい発見がある。
昨日より今日の方が上手くできたとき、そこに成長とやりがいを感じられる。
自分の“手”でモノづくりをすることが楽しい。
この先もずっとモノづくりを続けていきたい。
お客様にもっともっと喜んでもらえるものを作りたい。
そう笑顔で橘髙は語った。

大自然の中でHITAKIとともにアウトドアを楽しむ


そんな橘髙のモノづくりにかける真摯な思いがHITAKIには詰まっている。
おかげさまで、大変ご好評をいただいている焚き火台“HITAKI”。
この先も山一ハガネはMade in Japanの誇りを持ってモノづくりに取り組んで行く。

橘髙が手塩にかけて作り上げたHITAKI