焚き火台「HITAKI」開発秘話
———キャンプ歴40年の達人による焚き火への熱き思い
株式会社山一ハガネ 自社製品Gr.
GM 鈴木功一
■アウトドアの魅力
鈴木にとってアウトドアは、40年以上嗜んできた“なくてはならないもの”だ。
仕事などで慌ただしい日々を送る中で、アウトドアに出かけることにより、開放感を得られることが大きな魅力だと鈴木は語る。
そしてIT技術などの進歩により生活が便利になった反面、大人も子どもたちも自然に触れる機会が少なくなってしまった。
鈴木は自身の子どもたちにも、「現代ではなかなか体験できないことをさせてあげたい。」という思いがあり、子どもが小さいころから家族でよくキャンプに行ったという。
火をおこす、炎を直接見る、直火での調理、自然とのふれあい…。
キャンプに行かないとなかなか体験できるものではない。子どもたちにとって、それらはとてもいい経験になるだろう。
■開発者の思う“焚き火”とは
鈴木にとって“焚き火”とはどういったものなのか。
キャンプという限られた時間を楽しむための重要な要素であり、自身にとって価値のある時間。そして直火で調理したキャンプならではのワイルドな料理。
忙しい日々を抜け出し、ゆらめく炎を眺めながら美味しいものを食べることで、贅沢な時間を過ごすのだと言う。
そして、焚き火にとって“炎”が主役である。
そんな焚き火を眺めていて、鈴木はふと思った。
「もっと炎のための焚き火台を作りたい」
その思いから鈴木の焚き火台開発はスタートした。
■焚き火台の現状
近年流行しているアウトドア・キャンプ。
さまざまな製品が世に出ており、鈴木も過去に愛用するものがあった。
組み立てやすく、洗いやすい、そして炎が主役になれる、まさに“焚き火”のための焚き火台だ!と思う有名な製品だったという。
しかしその焚き火台を使用するなかで、「もっとこうなったらいいのに」と鈴木は思っていた。
既製品には満足していなかったのだ。
炎を美しく見せてくれるが、倒れやすいため調理には向いておらず、さらに鉄のプレートでできているので熱によって変形し、劣化していく…。変形した焚き火台は、組み立て・分解ができなくなってしまう。
鈴木はそれらをカバーした、頑丈で調理もしやすく、変形せずさびづらい、それでいて炎が主役として引き立つ、そんなまったく新しい焚き火台を作ろうと決意した。
■開発での苦労
キャンプブームによりさまざまな焚き火台が存在しているが、それらとは違う唯一無二の「究極」を目指した鈴木。
しかし開発は困難を極めた。
焚き火台は何度も火を焚き、洗浄を行うものだ。そこでさびづらい材料、ステンレスを選択した。ステンレスの中にもいくつか種類があるのだが、その中でも特にさびに強い種類を選択。ここで山一ハガネの長年の素材への知見が活きた。
材料が決まったものの、頑丈にすると重くなりすぎてしまうが、重さがないと強度が犠牲になる…。
そんな矛盾をいくつも抱えながらの開発だった。
そこで極限まで構造をシンプル化し、テンション(張り)を利用することでその矛盾を解決した。
さらに、頑丈さを実現するための設計にも苦労した。
CAD上で設計・計算したものを、実際に試作。部品点数を減らし、また試作。
組み立てた際に安定感が損なわれてしまうこともあり、緻密な調整を繰り返した。
使用する材料のサイズも、組み立てやすくしながらも丈夫さを損なわないようにいくつも試したという。
そうして何度もテストを繰り返し、耐荷重100㎏もの丈夫な焚き火台を作り上げたのだ。
ようやく完成したHITAKI。
しかし、誰も見たことがない斬新な形状の焚き火台なため、社内でもなかなか理解を得られなかったという。
「シンプルすぎて目を引かない」「製品らしくない」「無骨すぎる」…と、さまざまな意見があったが、鈴木は改良を重ね、丁寧に説明を繰り返し、理解者を増やしながら、自身が追い求める究極の焚き火台「HITAKI」を完成させたのだ。
■HITAKIに対するこだわり
——キャンプは贅沢な時間を味わうためのイベントのはずなのに、その時間の多くをテントや焚き火台などの設営・片付けに取られてしまう…。
——何度も焚き火台を使用していく中で、熱によって変形して組み立てられなくなる、さびて割れてきてしまう…。
毎週のようにキャンプに行く人こそ、同じ悩みを抱くであろう。
鈴木自身、長年キャンプを経験してきたため、そんな悩みをカバーできる焚き火台にこだわった。
熱が加わってもひずまない、さびづらい素材。
焚き火の主役である“炎”の美しさを遮らない設計。
設置・撤収・洗浄に手間がかからない構造。
自由が膨らむ拡張性。
ヘビーキャンパーが行き着く“究極”が、HITAKIなのだ。
■これからどんなアウトドアギアを開発するか
バイカ―用、ソロキャンパー用…。鈴木の頭の中にはすでにたくさんの構想がある。
「世の中の人が“こんなの欲しかった!”となるようなものを作りたい。多くの人に喜んでもらえるものを作りたい。」少年のように目を輝かせて鈴木は語った。
なんでも楽しみながら取り組む鈴木の、モノづくりに対する熱い思いは止まらない。