鋼に命を吹き込む熱処理の神秘
———熱処理、それは特殊鋼の特性を引き出す モノづくりの要
株式会社山一ハガネ 熱処理事業部
HCPダイテック熱処理センター
マネージャー 南方 洋
■そもそも“熱処理”とは?
「熱処理」と聞いてどんなものを思い浮かべるだろうか。
——ガラス工芸のような火の窯の前で作業をしている?
——ドロドロに溶けた鉄を扱っている?
そもそも何のために行う工程なのか、多くの方が分からないであろう。
特殊鋼は、その多くが素材そのままでは工業製品として使用するには軟らかすぎたり、Cr(クロム)やNi(ニッケル)などの元素を添加することによって得られているはずの靭性や耐摩耗性などがまだ発揮できていない状態にある。
切削工程を終え、粗加工形状になった製品や金型部品に、熱処理センターで所定の硬さや強度を付与する。
鋼材は9~10時間もの間、真空の炉の中で加熱され、その後、急冷することで硬さを得る。
納品の際、見た目はなんら変わっていないが、含有する炭化物の状態や粒径などの目には見えない内部組織は著しく改質されている。
見た目に変化がない分、簡単な作業だと思われがちだが、ハガネの改質パターンは無限であり、その加工は難易度が高い。同一形状の金型を同じ条件のもとで熱処理しても、決して同一に仕上がらないのは熱処理業界の常識。
それでも、いかに同一状態に仕上げることができるかが、技術者の腕の見せ所といえる。
つまり熱処理とは、特殊鋼を熱してから冷やすことで、硬さを十分に高め、その特殊鋼がもつ本来の特性を最大限に引き出すための、ハガネの加工にとって不可欠な処理なのだ。
■HCPダイテック熱処理センター
山一ハガネ の熱処理事業部である「HCPダイテック熱処理センター」では、焼き入れ炉3基・焼き戻し炉9基、サブゼロ装置1基がある。
「熱処理の工場」と聞くと、油汚れや騒音がひどい、というような想像をされるかと思うが、このHCPダイテック熱処理センターでは真空炉で処理をしているため、きれいで、とても静かなのだ。
HCPダイテック熱処理センターの流れ(低温処理品の場合)
▹16:00 トラックで集荷された金型の受け入れ
材質やお客様の指定の硬さ、処理温度に振り分ける。
▹18:00 焼き入れ・焼き戻しスタート
形状から熱処理後の歪(ひずみ)を想定しながら最適な場所へセット。
▹20:00 指示書へ炉番号や処理内容等記入
受け入れから焼き入れまでの一連の作業が落ち着く。
▹9:00 低温の処理品が完了
硬さや歪、傷の有無などの最終チェックを行い、出荷
あくまでも1つの処理品の流れであるが、こういった処理を技術者で分担・交代しながら行っていく。
■HCPダイテック熱処理センターの強みとは
とくに冷間材の処理を得意とし、歪を最小に抑えるための努力は常に怠らない。
データをとり、難しい形状のものを依頼されたときにも、その経験から、歪を最小にできるようにしている。
夏と冬では気温も違うため、金型の寸法変化も変わってくる。炉内の温度管理も重要なのだ。
技術者たちは常に「どうしたら歪を最小にできるか?」と考え、温度管理やセッティングに工夫を凝らす。
また、技術開発センター「AEROV」とも協力することで、加工から熱処理までの納期の短縮もお客様に喜ばれている。
その積み重ねた努力により、名古屋近辺の多くのお客様から信頼を得ている。
■失敗したら全工程やりなおし
焼き入れによる寸法の伸縮を「変寸」、反りや曲がりを「歪」というが、硬さや強度をプラスするための焼き入れ工程で、必然的に変寸と歪が生じる。
焼き入れを行った際、材料の元素の配列が変化するため、必ず歪はできてしまうのだ。
当然、歪だけでなく、変寸や割れといったリスクもある。歪や変寸が激しかったり、割れてしまうと、その金型はもう使い物にならないのだ。
熱処理工程で失敗すると、全工程がやりなおしになるのはもちろん、材料費・加工費・物流費…と、かかったコストの代償も大きい。
リスクの高い仕事ではあるが、HCPダイテック熱処理センターは、技術者が日々繊細な作業を積み重ね、高品質な製品を生み出している。
「歪が極力出ないように自分で考えてセットしたものが、本当に最小で完了できたとき、喜びを感じる。」そう南方は笑顔で語った。
■技術者になろう
技術や知識がなくてもいい。はじめは分からなくても熱処理技能士1級・2級を取得している熟練の職人たちが一から丁寧に教えるからだ。
簡単な工程からはじまり、徐々にさまざまな工程が行えるようになるのだ。
自分で考え、工夫しながら成長していく。
そして、熱処理はチームで行う仕事だという。厳しい条件の依頼品が来たとき、皆で話し合い、最善の処理を行うのだ。
山一ハガネでは現在、熱処理工程オペレーターを募集している。
機械のボタンを「ポチ」と押して完了してしまうような、ただのオペレーターではない。
HCPダイテック熱処理センターで本物の「技術者」になろう。
※勤務地:愛知県名古屋市緑区大根山二丁目146番地 株式会社山一ハガネ