取締役が語る!進化する山一ハガネの未来

———日本の社会課題に向き合い、モノづくりでお客様に必要とされ続け、この先の未来も成長し続ける

株式会社山一ハガネ

取締役 

小栗有志

■これまでのモノづくりと山一ハガネ

日本の“モノづくり”といえば、浮かぶのはやはり“品質の高い大量生産”ではないだろうか。
大量生産をしていく中で必ず必要なものが「金型」であり、その金型になるものが山一ハガネの扱う「工具鋼」である。そしてあらゆる製品の部品そのものになるものが「生産材」だ。
山一ハガネは創業当時から特殊鋼と向き合い、日本のモノづくりを支えてきた。

■メーカーとユーザー、そして山一ハガネ

山一ハガネの取引先メーカーは数十社。工具鋼や生産材を作り出すメーカーの“モノづくり”には量も時間も膨大に必要となってくる。
1つの特殊鋼を作り終えるまでに少なくとも3カ月は必要だ。
メーカーはそういったものを内示や注文書をもとに数カ月先まで製造計画を練っているのだ。しかし、ユーザーは特殊鋼を「必要な時に必要な分だけ」仕入れたい。
そうなるとメーカーとユーザーのタイミングは“合わない”と断言できる。
どこかで適正な在庫を管理することが必要になってくるが、その役目を担うのが山一ハガネである。

■山一ハガネの強み

先述したように、メーカーはモノづくりに時間がかかるため、どこかで在庫を管理する必要がある。
豊富な在庫機能は山一ハガネの強みだ。
金型の材料である工具鋼だけでなく、車などの部品の材料である生産材でも山一ハガネは多くのメーカーから、材質・形状共にトップクラスの種類を取り扱う。
多くのメーカー、多くのユーザーとの信頼関係がある山一ハガネだからこそさまざまなニーズに対応することができるのだ。

しかし、メーカーから仕入れた工具鋼は、まだ素材のままだ。工具鋼が持つそれぞれの強みが眠っている状態である。
単純に素材を在庫にしてお客様に卸しているだけではお客様のニーズに応えられなくなっていった。
そこで山一ハガネでは入荷した大きなサイズの鋼材の切断・フライス加工だけでなく、熱処理設備を導入した。熱処理を施すことで、工具鋼の特長を引き出すことができるのだ。
そして、金型として一番重要な精密部分を加工すべくAEROVができた。
これらすべてを一つの敷地内でできる。
———これが山一ハガネの“ファクトリーモール”だ。
こんなことができるのは、愛知県内、いや、日本全国を見渡しても山一ハガネだけなのではないだろうか。

95年の歴史の中で築き上げた鋼のファクトリーモール

日本国内人口が減っていく上に、自動車産業でConnected(コネクティッド)、Autonomous(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)といった「CASE」と呼ばれる新しい領域で技術革新が進むと、当然金型の量も減ってくるであろう。金型の物量が減ったときに、素材在庫・切断・フライス加工・熱処理・機械加工…それぞれを別の会社で行っていると、どうなるだろうか。
品物を行き来させるための運搬費も時間もかかる上、各工程間の調整も必要になってくる。さまざまなコストがかかってきてしまうのだ。
しかし、ファクトリーモールの山一ハガネならば一人の窓口に連絡すれば、それらすべての工程を一社で完了させることができる。
複数工程がすべて一拠点にあり、小回りが利く。これが山一ハガネの大きな強みだ。
「工具鋼のことをこれだけたくさん高品質に仕上げられる会社はほかにない」小栗は誇らしげに言う。

■日本のモノづくりを守りたい

山一ハガネのホームページをご覧になったことはあるだろうか。『創る支えに。拓く力に。』この言葉は山一ハガネそのものである。
小栗は「日本から製造業を出しちゃいけない。絶対に残さないと。」そう熱く語る。

モノづくりについて熱く語る小栗

20年ほど前、山一ハガネではあるプリンタのシャフトになる材料を卸していたという。同じ径の棒鋼が大量に出荷されていた。しかしある時、そのモノづくりが全て人件費の安い海外に切り替わったのだ。そうすると日本の材料が使用されなくなるだけでなく、部品を加工していた会社も仕事がなくなってしまった。
今、モノづくりにおいてこのような事例がどんどんと加速している。

日本の製造業の要の部分で使われているものが、さびにくい材料や熱に強い材料などといった“特殊鋼”だ。特殊鋼はその性質もあり元々膨大な量が必要とされるわけではないが、その特性や品質を進化させていかなければ日本のモノづくりや技術が衰退していってしまう。

単純に材料を在庫して卸すだけでは日本のモノづくりを守っていけないのだ。

■新たなモノづくりへの挑戦

大量生産のモノづくりが減っていくと同時に金型の需要も減少していく。そんな世の中の流れでも山一ハガネの「モノづくりを支えたい」という気持ちは変わらない。
市場のニーズが多品種少量生産に移り変わりつつあるという危機感の中で新たな技術“Additive Manufacturing”と出会ったのだ。
2016年ごろからAdditive Manufacturingを本格的に始動させた山一ハガネ。しかし、その道のりは苦労の連続だった。

AM技術は海外で栄えたものだが、AM事業を立ち上げた当時の小栗は、英語をまったく話せなかったという。
さらにAM事業を始めた当初は3Dプリンタの材料を販売したかった山一ハガネだったが、うまくいかなかった。多品種少量生産の特性をよく考えれば、材料のみを取り扱うだけではビジネスとして継続できるわけがなかったのだ。
そこで材料から設計、製造、販売まですべてを自社で行うことにした。ただ、一層ずつ積み重ねて造形するという3Dプリンタの特徴から、やはり積層痕が目立ってしまうため意匠性の高い製品には手を出せないでいた。
しかし、そんな壁も打ち破るのが山一ハガネである。より速くよりきれいに造形するために自社で3Dプリンタを設計製作し、後工程の一つである塗装技術も開発。3Dプリンタで造形したとは思えないほどの美しい意匠性を実現した。
「失敗量で比べたらAMをやっている企業の中でNo.1だと思う。一生懸命に失敗してきたよ!」苦笑いしながら小栗は言った。
ただの事業失策に思えるかもしれない。しかし、全力で取り組み失敗から学び、同じミスはしない。それこそが成功への近道でもあり、モノづくりの真髄ではないだろうか。

AdditiveManufacturingでも構築したファクトリーモール

■“営業”とは

山一ハガネが95年もの歴史の中で進化しながら築き上げてきた、鋼やAMのファクトリーモール。これは山一ハガネにしかない大きな価値だ。

仕入れにおいてやはりどの企業も調達係は価格が重要になってくる。しかし「仕入れ値を下げたい」という言葉のみを聞き、価格をどんどん下げていったとき、それは果たして本当に日本のモノづくりが喜ぶのだろうか?
答えはNOだ。

モノづくりを支え、進化させていくためには、実際にモノづくりをしている人のニーズを聞かなければならない。モノづくりの現場に行き、生産者の声を聞く。
工場の中を案内してもらうことはセキュリティ対策もあり、簡単ではない。真剣に向き合い、信頼関係を構築しなければお客様が“相談してみよう”と思うはずがないのだ。
今や取締役という立場の小栗だが、かつては生産材・工具鋼・AMなど山一ハガネのすべてを担当してきた。自身が扱う商材は変化したが、一切変わってない点があるという。それは“お客様のモノづくりの声を聞くこと”だ。
多くの知識が必要なのではなく、モノづくりをしている人の悩みを聞いてくる。とてもシンプルな事なのだ。
お褒めの言葉や悩み・不満点まで、さまざまな事で声をかけてもらえなければ “営業マン”ではない。

“この機械はこのように自動化しているけど実はここが重くて生産性が上がらない”などといった、モノづくり側の悩みや課題が必ずあるものだ。その悩みに対し山一ハガネの技術で改善策を提案していく。
その時のソリューションとして山一ハガネのファクトリーモールが活きてくる。多岐にわたる取引先メーカーの材料からベストなものを提案したり、AM技術による全く新しい改善策を提案していくのだ。
このように真のニーズに応えてこそ、真の営業マンといえるのではないだろうか。

営業として、いつでもお客様の悩みを聞いてきた小栗。

■山一ハガネの描くビジョン

山一ハガネの経営理念である“従業員の幸福の追求と共に、新しい社会の創造と発展に貢献します!”
その理念を胸にモノづくりを支え続ける山一ハガネだが、ただ単に物を作っていくだけの会社は淘汰されていくのでは、と小栗は語る。
地球そのものが抱えている、環境問題。この課題にモノづくりも直面している。
例えば自動車でいえば、今でも日本産の車は品質が高く、国内外で多く売れている。しかし二酸化炭素の排出による環境破壊が課題となり、カーボンニュートラルを実現しなければならない時代となった。新しい時代に合った新しいモノづくりに適応できなければ、おのずと“必要とされない会社”になってしまうのだ。
山一ハガネではリサイクルされた樹脂ペレットや環境に配慮した材質(食物由来など)を3Dプリンタの材料に適用したり、 CASTというカーボンナノチューブを使った表面処理で熱伝達率を高める技術を開発している。エネルギー不足や資源不足、カーボンニュートラルといった社会問題に貢献できるだけでなく、日本のモノづくりを残すことにも繋がる、価値のある技術を構築している。

カーボンナノチューブを使ったCASTという技術の開発

そして、日本が抱える社会問題はそれだけではなく、少子高齢化もある。今までの大量生産のモノづくりは働く人がたくさんいたので成り立っていたが、これからの働く世代は少なくなっていくばかりだ。当然、やり方を変えていかなければ成立しなくなっていく。
男性倫理で成り立っていた山一ハガネもどんどんと女性や外国人の活躍がしやすい会社へと進化しながら、次の働く世代の人々に“魅力的だ”と思われるモノづくりを続けていくのだ。
山一ハガネは進化しながら次の世代へと引き継がれていく。

■山一ハガネ流 進化論

山一ハガネは大きな企業になるために事業を拡大してきたわけではない。
いつでもメーカーとユーザーとの間に立ち、双方に必要とされ続け、日本のモノづくりに貢献できる会社になるために山一ハガネは進化してきた。

特殊鋼の特性をベストな状態に引き出すべく、それに特化した熱処理を導入し、熱処理後の仕上げ加工をタイムレスに行うためにAEROVを立ち上げた。
お客様が海外でモノづくりをするとなれば、タイやベトナムにも日本と同等の機能を開発してきた。
フィギュアスケートのブレードが抱えてきた問題点を解決するために長年かけて開発されたYS BLADES。
キャンパーの「こんなの欲しかった!」をかなえるために生まれたHITAKI。
環境問題の希望の光となるCAST。

選手やお客様の役に立つために生まれたYS BLADESとHITAKI

すべての原点は、“お客様の役に立つために” ただそれだけだ。
100年前からその精神は山一ハガネに宿り、この先の未来も進化していく。